「薬剤師は将来飽和するのかな?」
薬剤師を目指している皆さんの中には、そんな不安をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
中には将来を見据えて他にもスキルを身につけたいと考えている方もいることでしょう。
実際、厚生労働省の試算では2045年頃には薬剤師が余るようになることが示唆されています。
今後、競争の激化が見込まれる中で、
他の薬剤師との差別化を図る視点は誰しも持っておく方が良いでしょう。
しかし、そうはいっても他のスキルを見つけるというのは簡単ではありません。
この記事では、そんな将来を考える皆さんに向けて、
社会の状況や現場薬剤師としての所感も踏まえ、自分に合ったスキルの見つけ方をお伝えします。
今後どのようなスキルを身につけていくのが良いのか—―
その考え方を理解していきましょう。
2040年問題と薬剤師業界の状況|薬剤師が飽和する理由とは?
スキルについて考える上で、業界の状況を理解しておくことが非常に重要です。
何故なら、スキルとはその社会で求められているもののことだからです。
例えば今ならAIのスキルは優遇されますが、
火起こしの技術が求められることはそうありませんよね。
そこで、まずは薬剤師が関わっている社会の状況について理解しておきましょう。
2040年問題と薬剤師の数|現在と今後の推移予想
医療における2040年問題とは、団塊Jr.と呼ばれる世代が65歳以上の高齢者になることで、
医療人材が不足するというものです。
日本の人口の大多数は団塊の世代と、その子供世代である団塊Jr.世代が占めており、
現在の人口予測では、その2040年に高齢者の数がピークを迎えると言われています。
そのため、2040年の医療ピークに対応するだけの医療従事者をそれまでに育成していくことが
国の方針となっているのですが、ピークを越えた後は徐々に高齢者人口も減少していきます。
厚生労働省の試算では、2045年頃には薬剤師が必要な数を上回ると予想されています。
つまり、今から約20年後を目途に薬剤師が飽和するということが分かっているのです。
社会保険料のひっ迫|医療従事者の給料が上がりにくい理由
医療人材不足が叫ばれる一方で、社会保障の財源はひっ迫している状況です。
理由の一つは、やはり高齢化。高齢者ほど受診の必要性が高まるため、
高齢者が増えれば増えるほど医療支出は高まります。
理由の二つめが、生産労働人口の減少。少子化は、経済を支える労働者が減ることを意味します。社会保障財源は主に、労働者が支払う社会保険料で成り立っているため、労働者が減れば、それだけ社会保障の収入も減ることになります。
また、治療の複雑化に関する事情もあります。新薬開発が難しくなってきている昨今、
医療ニーズを満たす薬には抗体製剤のように開発に莫大な費用を要するものも増えています。
それだけ売価も高額になりますし、高度な医療を継続するにはお金がかかるのです。
こうした状況の中、国は、高齢者の負担割合を調整したり薬価を下げたり、
ありとあらゆる手段で対応を図っています。
診療報酬・調剤報酬の改訂もその一環であり、報酬の算定は年々難しくなっています。
薬剤師の飽和が意味すること|能力の差が浮き彫りになる時代
薬剤師が飽和するとは、具体的にはどういうことでしょうか。
勘違いしている人が多いのですが、薬剤師が必要なくなるというわけではありません。
正しくは、需要に対して供給が多い状態になるので、競争が激しくなり、
求められる人とそうでない人の差が浮き彫りになる時代になる、ということなのです。
薬局は企業ですから、必要以上の人材を雇うことはコストになります。
ただでさえ報酬を得るのが難しくなっているわけですから、
企業も求める人材を見つけるために人材を篩にかけることになります。
企業が求める人というのは極論「売上を増やすことができる人」であり、これは概ね、
対人の職業である薬剤師においては「患者に求められる人」ということでもあります。
つまり、薬剤師という職種そのものに未来がないのではなく、
企業や患者から求められる人でないと厳しい時代になる。
それが2045年頃の予測であるということです。
このように、薬局も薬剤師もしのぎを削る時代はもうすぐそこまで来ています。
今、あなたが20歳の学生なら、2045年頃はまだ40歳の働き盛り。
今から見据えておく理由は十分にあるでしょう。
以下の記事では、このことについてさらに詳しく解説しています。
問題の本質の方に興味のある方はコチラをご覧ください▼
薬局で求められるスキルとは?|薬剤師としての方向性を解説
ここまでの話を踏まえ、この章では薬局の薬剤師として求められることとは何なのか、を
もう少し深めて考えていきましょう。
薬局の薬剤師としては、大きく2つの方向性があると考えられます。
専門性を高める|課題解決ができる希少人材を目指す
一つは薬剤師としての専門性を高めるということです。
しかし、それはただ「一つの診療科に特化した知識を深める」ということではありません。
薬剤師の仕事は、処方の間違いを見つけることでも、
患者に薬の説明をすることでもありません。
その本質は患者の医療上の課題を見つけ出し、解決ができること。
治療を行う中で生活の問題や患者の考え方、疾患の状況など様々な理由で、
上手くいかないことがあります。
こうした問題の根本的な原因を探すには、
医師と同等かそれ以上に専門的な知識を要する場合があります。
専門的な知識があればあるほど、患者からの情報の聴取にも影響しますし、
医師への提案の質も変わります。
また、科学の側面において専門家というのはエビデンスを創る側に立つことを意味します。
つまり研究を行い、他の医療者が治療の参考にすることで自分がその場にいなくても、
患者を救えるようになること。
これが本来的に薬剤師が目指すべき専門性です。
ここまでできる薬剤師は現在でもごくわずか。
臨床現場で最も求められる人材としてのスキルの一つです。
マネジメント力を高める|チームで売り上げを高める力
もう一つはマネジメント側に立ち、チームをけん引するリーダーを目指すことです。
マネジメントとは、単に指示を出すことではありません。
その本質は、チームを動かすこと。
どんなに優秀な人材でもできることには限界があります。
一人が一人分の仕事だけこなしても、それ以上のお金を稼ぐことは出来ません。
一方、チームが上手く機能すれば、成果は足し算ではなく掛け算になります。
より多くの業務を行い、成果を高めることができます。
そのため、ビジネスの世界では自分で作業をして1件を達成するよりも、
10人に作業をさせて10件以上作業を完了させた人が価値の高い人と判断されるのです。
通常、特に日本ではどの業界でも作業者からのステップアップで
マネジメントの役割が与えられます。
マネジメント側に立つ社員は、高い専門性を有することが多いのは確かですが、
マネジメントは本来、他の社員に作業をさせること。
つまり、専門家として道を究めるのか、マネジメント側に立つのかは完全には両立せず、
どちらかの道を選んで進んでいくようなイメージになります。
ここまでお話ししたのは薬局という企業の中で、
薬剤師として選んでいく道を大別したものでした。
次の章では、さらに別の視点からスキルについて解説していきます。
薬剤師の仕事にも必須!|身につけておくべきビジネスの基本スキル
ここまで、薬剤師としての方向性について話してきました。
ただし、これからの時代は専門性だけでは十分ではありません。
医療の枠を超えて働くことが当たり前になる中で、業界・職業が変わっても使えるスキル、
いわゆるポータブルスキルが必要になります。
文書作成スキル|わかりやすく伝わる文書作成術
文書作成は、自分の意図や考えを整理し、相手に届けるスキルです。
しかし、ただ文章を書き並べれば文書になるわけではありません。
ビジネス文書とは本来、コミュニケーションのツールです。
読み手に「読んでもらう」ことがゴールではなく「行動してもらう」までがワンセット。
そのために章立てや論理構成、レイアウト、言葉選びまで含めて全体を設計します。
誰に向けて、何を伝え、どう動いてほしいのか——
ここまで考えるのが文書作成です。
近年では、薬局でも医師や多職種向けに文書を作成する場面が増えており、
文章で情報を整理して残す力は、もはや避けて通れないものになりつつあります。
「文章なら書ける」と思っている人は多いですが、
文章を書けることと、“文書として機能する文章が書けること”はまったく別物です。
ここを理解しているかどうかで、仕事の質は大きく変わっていきます。
プレゼンスキル|スライド作成から発表まで
自分の主張を整理して、まとまった時間で話をするのがプレゼンテーションです。
衆人環視の中で話すとなると、緊張したり、「苦手だ」と感じる人も多いでしょう。
しかし、プレゼンは特別な能力ではありません。
プレゼンの本質は一対多のコミュニケーション。相手に内容を届けるための方法のひとつです。
現場の薬剤師でも一般向け講座、学会発表、多職種連携、採用など、
人前で伝える機会は確実に増えています。避け続けることはもう難しいでしょう。
「うまく話せる人」が向いているのではなく、
相手が理解できる形に整理し、届けられる人ができるようになるものです。
苦手意識がある人ほど、“自分の言葉で話す”という視点が鍵になります。
誰かになろうとする必要はありません。
丁寧に相手へ向けて話す、その意識の積み重ねがプレゼンです。
プレゼンは才能ではなく、理解を届けるための設計。
そう捉えられると、苦手意識は「向き合えばいい課題」へ変わるはずです。
コミュニケーションスキル|お喋りとは違う!仕事のホスピタリティ
どこの業界に行っても、最も必要になると言われているのがコミュニケーションスキル。
とはいえ、仕事で必要とされる「コミュニケーション」は、人と仲良くなることでも、
ましてや面白い話ができることでもありません。
仕事におけるコミュニケーションの目的は、あくまでも業務上の目的を達成すること。
そのときに大切になるのが「相手への配慮」です。
会話が得意・不得意ではなく、相手が理解しやすい形で伝えられるかどうか。
その視点があるだけで、コミュニケーションはスキルとして成立します。
仕事では、常に目の前の課題を解決する必要があります。
自分一人では解決できないことの方が多く、人に動いてもらう機会も増えます。
そのために、言葉選びや伝え方を調整すること——
これがコミュニケーションスキルです。
相手の背景や要望を考えず、自分の意見だけを押しつけることは
「目的の達成」から最も遠い行為です。
論破や否定から入る話し方では、人は動きません。
丁寧な配慮があるだけで、同じ内容でも受け取られ方は大きく変わります。
そしてそれが、仕事におけるコミュニケーション価値の差になります。
コミュニケーションとは、相手を尊重しながら目的に近づけるための技術なのです。
こうした配慮ができていれば、ビジネスの場ではそれだけで印象が良くなります。
以上、ビジネスの場で必要になる必須スキルについて解説しました。
資格も尺度もないスキルですが、どれも差が如実に現れるスキルです。
できていれば仕事で関わる人からの評価も確実に上がるので意識しておきましょう。
次の章からは、薬剤師以外の働き方について考え方を解説していきます。
薬剤師も副業する時代!?|働き方についての考え方
ここまでは、薬剤師として仕事をしていく中で身につけるスキルについて解説してきました。
いわば「薬剤師としてのキャリアを深める方向」の話です。
しかし今は、薬剤師の働き方そのものが大きく変わりつつあります。
ひとつの会社・ひとつの職場だけでキャリアが完結する時代ではない。
その前提を踏まえたうえで、ここでは働き方の考え方について触れていきます。
副業はあり?|薬剤師のこれからの給料事情
薬剤師は「給料が高い仕事」というイメージがあるかもしれません。
確かに初任給や年収水準は他職種より高めです。
しかし、社会保障費の圧迫や医療財源の減少、そして報酬改定の影響もあり、
昇給幅は小さく、キャリアを重ねても伸びにくいのが現実です。
そのため、企業だけに依存し続ける働き方は今後ますます厳しくなるでしょう。
そこで選択肢として挙がるのが「副業」です。
対して、副業で月に2万円稼げるだけでも、年収換算では24万円。
数字だけ見れば小さく感じるかもしれませんが、
働き方の選択肢という意味では、その差は想像以上に大きくなります。
もちろん副業にはリスクもあります。時間・体力・スキル、そして覚悟が必要です。
副業に充てる時間を薬剤師としての勉強、
努力に充てて昇級を目指す方がいいという考えもあるでしょう。
重要なのは、「どちらが正しいか」ではなく、
選択肢を知ったうえで自分の価値観に沿って選ぶこと。
働き方は、ひとつしかない時代ではないのです。
薬剤師の働き方の変化|対物から対人が転換のヒント
元々医薬品の小売店としての側面を持つ薬局ですが「対物から対人へ」のフレーズとともに、
医療に参画してきました。
患者との接点が高まり期待される役割も増えている一方で、
拘束時間の長さに悩む薬剤師も少なくありません。
そんな彼らにとって、コロナ禍により発展したリモートワークは魅力的に映ることでしょう。
近年では、オンライン服薬指導を行う薬剤師の求人が出ることもあります。
また、薬剤師とは全く別のWebデザインやライティング、
動画作成といったクライアントワークも人気です。
薬剤師資格や医療知識は、こうした分野で“付加価値”になります。
これまで解説してきた文書作成力・プレゼン力・コミュニケーション力は、
こうした働き方と相性が非常に良いスキルです。
つまり、薬剤師としての業務だけでなく、
働き方そのものが変わっても活かせる“対人スキル”が求められているのです。
そして今後は「どんな職場で働くか」ではなく、
“どんな価値を提供できる人になるか”が問われていきます。
以上、ここまで、副業や働き方の変化について触れてきました。
働き方が多様化した今、薬剤師として働く以外にも、
知識や経験を活かせる場面は増えています。
次の章では、ここまで整理してきた働き方の変化とつながる形で
「なぜ今から備える必要があるのか」を整理していきます。
2040年問題を見据えて|薬剤師が今動き出すべき理由
ここまで、将来の薬剤師を取り巻く環境と、
そこに向けた薬剤師の生き方について解説してきました。
でも、まだ20年も先の話でしょ?焦って今動く必要は無いんじゃない?
と思うかもしれません。
最後となるこの章では、それでも今動くことでどんな効果があるのかを解説していきます。
差別化の勝負所|20年間の時間で勝ち取る
薬剤師が飽和すると言われるまで、残された時間は約20年。
つまり この20年こそが勝負 です。
なぜなら、時間そのものが最も大きな参入障壁になるからです。
仕事というのは、業界を問わず経験値に依存する部分があります。
時間をかけて積み上げた経験値。
そして、その経験値に基づく信頼は、簡単に覆ることはありません。
特に調剤薬局のようにコモディティ化(業界で均質化されて企業ごとの差別化がない状態)
している業界において、飽和した状況を打開するには新たな差別化が必須です。
企業視点でいえば、いざ何か新しいサービスを始めようとしても、
もうすでにそこの市場が先行企業に占められている状態であれば、
利益を出すことが出来ません。
つまり言い換えれば、なるべく早く初めてこの20年を備える期間、
事業やスキルを育てる期間に当てていかなければ、
飽和する時代に立ち行かなくなってしまうということなのです。
社会の変化に対応できる柔軟性を|今の社会だけで予想は出来ない
とはいえ、今の時代に合わせた対応をしているだけではいけません。
なぜなら20年あれば時代は大きく変わるから。
実際、今や誰もが使っているスマートフォンでさえ登場は2007年。
まだ20年すら経っていません。
それでも生活様式、消費行動、働き方は大きく変わりました。
今であればAIの進化は無視できませんし、今後も新たな技術が生み出されていくことでしょう。
そんな中で、既存のやり方に縛られているのは、
今で言えばPCを使わずに手書きで長文を書くようなもの。
常に時代は移り変わる——
それを見越して行動していかなければなりません。
もちろん、どう変わるのかは予想できないものです。
その時になってみないと何が必要になるのかはわかりません。
しかし、どう時代が変わっても、即座に対応できるような柔軟性を持っておかなければなりません。
そしてそのためには色々な経験をして物事の本質を見定めるようにしておくことが重要なのです。
自分で考える習慣をつけよう|上の人の言うことを鵜呑みにしない
これもよく言われていることですが、
上の人の言うことを全て鵜呑みにしていてはいけません。
なぜなら、上司たち、大人たちは今までの自分の経験に基づいて意見を言うからです。
これは彼らの立場からすれば当然のことですし、
経験や信頼に基づいて発せられる意見は重要なことも多いのは確かです。
ただ、今の上司たちは責任を取ってはくれません。
今、偉い立場にいる人たちも、年齢的に20年後には退職している人も多いでしょう。
大事なことは、参考にできる部分は参考にしつつ、情報を集めて自分で思考することです。
どんなスキルを身につけるのか、どんな働き方を選ぶのか——
それを決められるのは、自分だけです。
正解を探すのではなく、自分で選び、更新し続ける姿勢。
それこそが、変化の時代を生き抜く力になります。
まとめ|将来を生き抜く薬剤師のチカラ
以上、今後薬剤師はどのような力を身につけていけば良いのかを解説しました。
この記事の内容はまとめると以下の通りです。
・生き残るのは、専門性より“対人スキルを持つ薬剤師”
・働き方はひとつじゃない。選べる時代に生きている
・20年の積み上げが、最大の参入障壁になる
・正解に従うのではなく、自分で選び続ける人が未来を掴む
”働く個人”としてどうなりたいか、どう生きていきたいか、ということが肝です。
自分の考えと、薬剤師としてのバックグラウンドを大事にしながら、考えてみましょう。