【学会報告】薬剤師による研究発表|参加して感じた印象と薬局の課題

Formulø編集長の花井です。

7月の三連休に宮崎県で開催された、第85回九州山口薬学大会に参加してきました。

大会概要 | 第85回九州山口薬学大会 | 株式会社コンベンションリンケージ 

今回の学会参加によって大きく以下の2点について感じたことがあったので、

参加報告として記事にします。

①研究視点で見た「薬局の研究」の現在地
②薬剤師にとっての「学会の立ち位置」

本記事では、まず「①研究視点で見た「薬局の研究」の現在地」をテーマに、
感じたことを率直にお伝えしていきます。

薬剤師や薬学生の方で今後、学会発表を行いたいと思っている方に向けて、
なかなか他では見ることができない、きれいごと抜きの生の声をお届けします。

目次

研究視点で見る演題|薬剤師の学会発表は研究とは呼べない

薬剤師の学会における、ほとんどの演題は研究のレベルにない。

これが、まずはじめに言っておきたい、
今回の学会参加で、私がもっとも強く感じたことです。

これは、研究としての質が低い、という話ではありません。

より率直に言い換えれば、研究としての最低限の体裁が整っておらず、
「研究とは呼べない」ということです。

もちろん、学会では症例報告や活動報告といった発表も重要であり、
すべての演題が研究として成り立っている必要は全くありません。

しかし、私が伝えたいのは演題の分類の話ではありません。

研究であれ、症例報告であれ、活動報告であれ、
発表として本来考えるべき視点が十分に検討されていない演題が、
あまりにも多すぎたと感じられたのです。

これは学会としては、正直に言って危機的状況だと言わざるを得ません。

「研究と呼べない」と感じられた理由|発表で整えるべき研究の体裁

では、実際にどういった点が「研究と呼べない」と感じさせたのでしょうか。

様々な演題を見ていて感じたことを以下のように整理してみました。

  • 発表の目的が曖昧で、何を伝えたいのかが分からない。
  • 目的に対して、その方法や結果で十分に答えられているとは言い難い。
  • 結果から得られる示唆や考察が浅く、議論が深まっていない。
  • 質疑応答が研究や発表を発展させる場として十分に機能していない。

つまるところ、発表として成立させるための検討が十分ではない、ということなのです。

データ数が少ない、統計的な差まで踏み込んでいない、考え得る複数の評価軸で
検討がなされていない、などであれば研究としての質が低いという評価になります。

しかしこの場合は、検討を進めれば研究として十分に成り立ちます。
いわば発展途上であるということ。

一方、薬剤師の学会で見られる演題の多くは、それ以前の話です。

発表するのであれば、どんな形式であってもこのくらいは検討しておくべき。
それが不十分だったことが、私が「研究と呼べない」と感じた最大の理由です。 

以上、学会発表に参加して感じたことを述べてきました。

ここからはさらに具体例も交えながら、発表として検討が不十分に感じたポイントを、
より詳細に説明していきます。

なお、個別の事例改善や批判を目的とした指摘ではなく、事例を通した学びとして
記載していきます。また、発表が聞けずポスターの記載のみに言及したものも含みます。

研究の質を左右する前提設計|アンケートで何を知りたいのか

薬剤師の発表でありがちなのが、研修など何等かの活動を行いアンケートを実施した、というもの。
活動報告やアンケート研究に属するものです。

アンケートの結果は、アンケート項目ごとにパーセンテージを図示すれば、
それらしいポスターができるので研究として分かりやすいのが特徴です。

しかし、一方で結果を語るだけで満足してしまい、考察が甘くなりやすいことも。
例えば、今回聴講した中で気になったのは以下のような点でした。

具体的な意見が得られていない|改善点が不明確なアンケート調査

研修実施後のアンケートで、「新たな知見が得られた」が100%(2人中2人)だった、
との結果に対して、具体的にどのような部分で知見が得られたのか?を質問してみました。

アンケートに自由記載もあったとのことで伺った質問でしたが、
「内容はわかりません。」との回答でした。

研修後アンケートの目的は、実施した安心のためではなく今後の改善です。

その意味で、回答から改善点が見えないアンケートは、実施の意味があまりありませんし、
調査としてまとめるのであれば、尚のこと項目ごとの意義を精査しておく必要があります。

自由記載はそもそも回答を得られにくいので、アンケートの精度を高めるためには、
アンケート項目をより具体化していくなどの対応も必要です。

アンケートの前提と考察の齟齬|アンケートの目的を忘れた考察はNG

ある演題では、研修の実施後アンケート調査で、若手の受講数が少ないという考察をされていました。
そこで、その理由を質問したところ、「薬剤師会の会員向けの研修だったから」との回答をいただきました。

また、では若手薬剤師にどう訴求して広げていくのか戦略はどうか?
という質問に関しても何も具体策がないという状況でした。

そもそも薬剤師会にほとんど若手が在籍していない。ということであれば、
最初から対象に含まれていないのだからアンケートをしても表れるはずがありません。

また、結果考察として若手の参加について言及するのであれば、
そこの課題についても認識しているという理解になります。

回答を一つも用意していないのは準備不足と言わざるを得ないでしょう。

つまり、アンケート研究における考察は、ただ結果について言及するだけでなく、
アンケートの前提まで踏まえてしていくことなのです。

この2つの事例に共通していたのは、「アンケートを取ること」が目的になり、
「何を知りたいのか」という設計が十分になされていなかったことです。

アンケート研究では、質問項目を考える前に、「何を明らかにしたいのか」を設計しておくことが重要です。
そこが曖昧なままでは、結果も考察も十分なものにはならないのです。

考察は研究デザインで決まる|研究全体を俯瞰して考える 

様々な発表ポスターを見ていて感じたのが、考察が十分に深まっていないのではないか、
ということ。

もちろん、結果から考察を導くこと自体は研究において重要なプロセスです。
しかし実際には、考察だけを見直しても十分な議論にならないことが少なくありません。

その理由は、考察の内容が、研究の目的や方法、取得したデータなど、
研究全体のデザインに大きく左右されるためです。

この章では、研究として興味深い一方で、
「もう一歩踏み込めたのではないか」と感じたちょっと惜しい事例をご紹介します。

臨床研究でよくある交絡因子|異なる評価軸の比較検討はマスト事項

臨床研究では、交絡因子が沢山あります。

この点で今回注目したのは、ある薬の副作用として生じる低K⁺血症と腎機能の関係を調べた研究でした。

気になった点としては、腎機能別の副作用頻度を調べた研究である一方で、
その他の因子について記載がなかったこと。

腎機能低下患者や透析患者は、腎臓からK⁺排泄が低下するため、
高K⁺血症の治療薬を使用することが往々にしてあります。

薬を服用していれば、それが結果に影響する可能性があるため、
完全に腎機能に応じて副作用が生じるかどうかが議論できなくなります。

そのため、こういう場合は併用薬の種類や是正状態のK⁺によって、
層別化を図った検討結果も見てみたいと思いました。

もちろん検討していても今回のポスターには記載しなかった可能性もありますし、
私が読み切れていない結果で示していた可能性もあります。

今回の学会では惜しくも発表を聞けなかったので、詳細は分かりません。
ただ、臨床研究では、このような交絡因子によって、結果の解釈が大きく変わることがあります。

そのため、「どのような結果だったか」だけではなく、
「他に結果へ影響し得る因子はなかったか」という視点まで含めて、検討することが重要です。

考察は結果だけでは生まれない|研究デザインから見直す視点 

ちょっと惜しい研究として私が注目したのは、
最近話題のAI薬歴と効率化について検討した研究です。

当該研究によれば、AI薬歴によって一患者薬歴あたり平均して56秒短縮でき、
1日40人対応すると仮定すると1日37分短縮できるとの結果でした。

この結果に対する考察としてポスターではAI薬歴が業務効率化できる可能性がある、
と述べられていました。

私が惜しいと感じたのは、結果は示されているものの、
その結果が臨床的にどのような意味を持つのかという議論まで踏み込めていなかったことです。 

考察においては、その37分は臨床的にどの程度意義があるのか?
まで含めて考えるべきなのです。

例えば、薬歴が残業の原因になっているというのであれば、そもそも残業時間がどの程度なのか?
が気になるところです。

毎日何時間も残業しているのであれば、37分の短縮はそこまで効果的ではないかもしれません。

また、人によって捌ける量や業務の種類が異なるので、
残業時間の程度や一定期間に対応した処方箋枚数で層別に検討すべきでしょう。

仕事を捌ける量が少ないスタッフにおいては、AI薬歴によって短縮できる時間は大きくなるかもしれませんし、その一方で生み出した時間で新たな価値が創出できるかどうかはまた別の話になります。

この2つの事例から言えることは、考察とは単に結果について文章を書くことではないということです。

考察に行き詰まったときは、まず研究全体を俯瞰し、「この研究では本来何を明らかにしたかったのか」
という目的に立ち返ることが重要です。

その上で、現在のデータだけでは十分な議論ができないのであれば、研究デザインそのものを見直し、
追加の解析やデータ収集を検討する必要があります。

考察とは、研究の最後に付け加えるものではなく、研究全体を見直しながら深めていくプロセスなのです。

薬局研究の課題と可能性|研究文化の醸成に向けて 

ここまで、学会で感じたことを研究という視点から率直に書いてきました。

正直に言って、現状の薬局研究にはまだ多くの課題があると感じています。
しかし、それは「薬剤師には研究ができない」という意味ではありません。

今回紹介した事例の多くも、テーマそのものは非常に興味深く、
あと一歩視点を変えるだけで、より価値のある研究へ発展できる可能性を感じるものばかりでした。

薬学はサイエンスであり、薬剤師もサイエンティストの端くれです。
そして研究とは、正しさを示すためのものではなく、新しい視点を得て、
次により良い問いへ繋げていく営みです。

だからこそ、結果をまとめる作業ではなく、
「もっと知りたい」「もっと深く考えたい」という知的探究として、
研究を楽しむことができる文化が広がっていけばと思います。 

学会が、そのような議論を通して互いの研究をより良いものへ磨き上げていく場になれば、
薬局業界全体の研究文化もさらに発展していくのではないでしょうか。

今回の学会を通して感じた課題は、薬局研究における伸びしろだと思います。

だからこそ、誰かを否定するためではなく、薬局研究をより面白く、
より価値あるものにしていきたいという思いから書きました。

そしてこんな風に言っている私自身もまだまだ道半ばです。
研究について学び続けながら、薬局研究の発展に少しでも貢献できればと思っています。

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